鳳凰の部屋

「~思いを胸に~」 吉田 直

世間はクリスマスやお正月を迎え、普段の自分ならのんびり過ごしている時期だ。しかし、今年は最終節の壮絶な戦いに競り勝ち、鳳凰位決定戦の切符を手に入れ、1ヶ月間後悔のないようみっちり稽古を積んだ。

そして試合当日の朝を迎える。
ここまで不思議と緊張することなく睡眠もしっかり取れ、目指すは連盟最高峰の頂点鳳凰位だ!

会場に着き、試合開始前は昨年の瀬戸熊同様、鳳凰位のカップを眺めた。
「瀬戸熊さんはどんな気持ちでこのカップを見ていたのだろう」と考えながら、必ずこのカップを自分の手にと思い席に着く。

初の決定戦で考えていた事はただ1つ、普段通り打つ事。
連盟に入ってからどれだけ決勝戦を見たかわからないが、普段と違う打ち方をして負けてきた人をたくさん見て来た。それは決勝の重圧からなのか、それとも勝ちたい気持ちが前がかりになってしまうからかわからないが、普段通り打つ事が一番難しいと思っていた。そして普段通り打てなければ、現鳳凰位前原、鳳凰戦優勝者予想で全員が◎をつけたHIRO柴田、32期鳳凰位の勝又相手に見せ場もなくやられる事は容易に想像がついた。

遂に会場に試合開始の合図が鳴り響く。
1回戦が始まり少しは緊張するかなと思ったが、試合にちゃんと入り込めていて安心した。

まずは序盤。
東1局2本場ドラ東
南家の勝又が2つ仕掛けて一色手のテンパイを入れる。

四索五索発発中中中  チー三索 左向き一索 上向き二索 上向き  チー一索 左向き二索 上向き三索 上向き

そこへドラの東を重ね、場に高い六索を引き入れた自分は残り1巡だが積極的にリーチに踏み込む。

四万五万六万四索五索六索六索七索八索六筒七筒東東

しかし親の前原もずっとテンパイしていて、持って来た六索をツモ切り勝又に3,900は4,500の放銃。

五万五万九万九万九万四筒五筒六筒七筒七筒白白白

勝又はこのアガリから、次局の親で4,000オールをアガリ抜け出す。しかし現鳳凰位の前原も当然黙っているはずもなく、2人のデットヒートを眺めていた。

南1局4本場、ここで鳳凰戦の初アガリとなる、タンヤオ、ピンフの2,000点をようやく親の前原からアガる。

南2局ドラ五索 親勝又

勝又が4巡目にリーチを打つ。

一万二万三万三万四万四万五万五万七万八万九万四索四索

これを受け勝又のこの早いリーチは、ピンフドラや役牌ドラ、ドラドラなど最低5,800はあるリーチだと瞬時に想像した。
ただ待ちは愚形もあると思い、自分は以下の手牌で勝負に行った。

一万二万四万三索七索九索南南白白中中中

試合が終わった後に色々な人と話したが、みんなが口を揃えてあれは押せないと言った。
自分はこういう形から何度もアガった事がありイメージが出来ている。もちろん手痛い放銃も散々経験してきた。(笑)
しかし、リーチと言って無防備になっている獲物を捕らえるチャンスだと思って踏み込みたくなってしまう。もちろん前局のヤミテンのアガリを踏まえてだが。

そしてツモが応えてくれ、8巡目にテンパイしてリーチを打つ。

一万二万三万七索八索九索南南白白中中中  リーチ

2巡後南をツモアガリ3,000・6,000で原点付近まで点数を戻す。
しかしオーラス、柴田、勝又の2軒リーチが入り、柴田の手を勝手に七対子と読み違え7,700の放銃でラスを引く。
休憩中に、最後の親の仕掛けは、浮きに回りたいだけの仕掛けで自分らしくなかった事を反省。
しかし、初戦からしっかりと自分の持ち味を出せた事は、戦える自信にもなったので焦らず冷静に打とうと心に決めた。

2回戦は、親の早いリーチからドラドラ七対子の6,000オールがアガれたので、そのまま加点していき鳳凰戦初のトップが取れた。
このまま勢いに乗りたかったが、3回戦の東4局に判断ミスをしてしまう。

東4局ドラ八筒親吉田

北家の柴田がピンズのホンイツで仕掛けを入れていく。ここまで調子が良くない柴田の仕掛けなので、ある程度無視して行こうと思っていたが、3フーロされたら見ない訳にはいかない。

五筒六筒七筒白  ポン東東東  チー九筒 左向き七筒 上向き八筒 上向き  ポン南南南

自分は中を仕掛け以下の形。

九万九万九万三索四索五索五筒五筒六筒八筒  ポン中中中

そして柴田が一筒を持って来て少考後ツモ切る。
その後、自分は四筒を持って来たが、ドラの八筒単騎にも受けられる打五筒と出来なかったのが酷すぎた。
柴田の一筒少考は、明らかな単騎選択なので、五筒八筒のノベタンに当たるとなると以下の形から九筒
を仕掛けたことになる。(3フーロ後は全てツモ切り)

二万二筒五筒六筒七筒七筒八筒八筒東東  ポン南南南

もちろんこの形からの仕掛けもあるが、そうなると柴田なら五筒八筒のノベタンから一筒単騎に変えそうなのでやはり五筒八筒は通ると考えられる。
そして西を持って来て小四喜があると思い回ったが、これも小四喜の西単騎テンパイなら悩まないので西も通る。
万が一を考えたらキリがないし、自分は自分の読みを信じて今まで相当な牌を切って来たのに、ここで切れなかったのは本当に後悔しかない。

結局八筒のアガリ逃しをした後、当然の様に前原に3,000・6,000を引かれる。

前原
一万二万三万一索一索二索三索三索一筒二筒三筒九筒九筒  ツモ二索

これは結果論ではなく、自分の戦う姿勢の問題である。柴田が今日良くないから、しっかりと読んで押さなければいけない局だった。

そして次局、親の前原から6巡目にリーチが飛んでくる。もちろん愚形の場合もあるが、前局のアガリを考えると、打点はあると判断しここはアガられたらヤバイと直感的に思った。
たまたま自分のツモが良かったので、真っ直ぐ攻め数巡後テンパイを果たすと、そのまま500・1,000のアガリを物にした。

四万五万二索二索四索四索四索四筒五筒六筒六筒七筒八筒  ツモ三万

家に帰り初日の映像を見ていると、この局の前原のリーチがツモり四暗刻だったと知りビックリ!

二万二万一索一索一索九索九索白白白発発発  ドラ九索

おそらくあの時のテンションだとドラも切っていただろう。しかしこの前原の手牌、道中でソウズのホンイツに向かう打ち手だったら

一索一索一索三索四索九索九索白白白発発発

このテンパイが8巡目に入って、そのタイミングで北家の自分は五索を打つので、24,000放銃だったかもしれず助かっていたなと思った(汗)
それでもこの半荘はラスを引き、初日の最終戦を迎えて以下のポイント状況。

前原+52.5P
吉田▲3.6P
勝又▲7.0P
柴田▲41.9P

ここまで不調だった柴田が遂に眠りから目覚め、60,000近くまで点棒を増やし、今日の負債をほぼちゃらまで戻した。
しかし柴田の動きで親の自分に手が入る。

東4局ドラ八万

柴田

三万三万四万六索四筒五筒五筒六筒六筒八筒八筒白白

3巡目に1枚目の白ポン、三万ポンをして5巡目に以下の形。六筒八筒が出てもトイトイにはしなかったので捌き手にしたのだろう。

四筒五筒五筒六筒六筒八筒八筒  ポン三万 上向き三万 上向き三万 上向き  ポン白白白

しかし柴田の仕掛けで

三万五万五万六万六万七万八万八万二索二索三索五索七索

ツモ四索→打三万

ツモ八万→打七索

五万五万六万六万七万八万八万八万二索二索三索四索五索

タンヤオドラ3の親満テンパイ。数巡後、柴田から四万が出て12,000のアガリ。打っていてトップ目の柴田の仕掛けに違和感を覚えた。(後で映像を見ると仕掛ける人もいるし、そこからトイトイにする人もいる難しい手ではあった。自分ならトップ目でメンゼンの手が決まっているので1枚目からは仕掛けない。2枚目もポンテン以外は仕掛けないと思う)

そして1本場はリーチをしたが流局して次局、5巡目に難しい手牌が来た。

東4局2本場ドラ四索

四万五万六万三索三索二筒三筒四筒五筒七筒七筒八筒九筒  ツモ五筒

本線は一気通貫で六筒ツモはフリテンリーチと決めていた。ドラが四索なので七筒切りもあるが、八筒九筒引きは即リーチを考えていたので五筒ツモ切り。
そこに7巡目三索引き。ピンズの上がいいと思っているが、流石にドラ引き3面張は逃せないと思い少考後七筒切り。
次巡、理想通りの一筒ツモで三索切りリーチ。
そして柴田が前巡以下の手牌になっていた。

三万三万三万四索四索五索六索六索七索四筒四筒六筒六筒六筒

ここから六索切りテンパイ。
しかし終盤自分が当然のように六筒をツモり4,200オール。
さらにラス親でも加点して最終戦は50,000点のトップで終了し初日を終えた。

初日終了時

吉田 +24.7P
前原 +14.8P
勝又 ▲4.4P
柴田 ▲35.1P

最終戦が終わり控室に戻ると、集中力が切れたせいか疲れが一気に押し寄せたがとても清々しい気持ちだった。
もちろん反省点は多々あったが、この鳳凰位決定戦という舞台で戦えている事に喜びを感じ、思っていたよりも緊張せず自分らしい麻雀を打てたので満足していた。
そして残りの3日間も自分の麻雀を精一杯打とうと思いながら帰路に就いた。