鳳凰の部屋

第29期鳳凰戦の軌跡~反応~

9回戦のオーラス、暴牌とも言える三索を打って終えた僕は、つかの間の休憩時間、
ふと今朝の光景を思い出していた。

朝食の最中、大家さんがきんかん(金柑)を持ってきてくれた。
すぐに食卓に出されたけど、僕はあまり食べたことがなかったので、「夜食べる」と言ったら、
「今一粒でも食べた方がご利益あるよ」と言われる。
「?なんで?」
「だってきんかんだよ。漢字は違うけど、戦の前に金の冠が届いたんだから」
「金冠かぁ。じゃあ食べたい」
上手い事言うなと5回戦分5粒食べた。
「食べ過ぎると、おなか下すから気を付けてね」
「・・・・・」(緊張でずっと下し気味である)
戦いとは違う緊張感が生まれそうだ。

そうこうしていると、今度は宅配便が届いた。中身は米、調味料、お菓子から野菜まで、段ボール箱いっぱいに詰められている。極貧時代の名残りで、今でも実家から定期的に小包と言う名の救援物資が届くのだ。
もう親の心配をしなくてはならない歳なのに、ありがたい想いと少しだけ恥ずかしい想いが交差する。

先日、山梨の温泉旅館に「鳳凰の間」というのを見つけた。
優勝したら、両親にプレゼントすると決めていた。
何で今思い出したのかは分からないけど、気合と感謝の気持ちを持って、卓に着いた。

10回戦東2局1本場

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テンパイ濃厚な前原さんの仕掛けに、ツモ三筒ときて、白を強打。前原さんの少考。
通ったようだった。が、次の瞬間「カン」の発声。通ったはずが、通らなくなるケースがある。
リンシャンに手を伸ばしてから打牌を終えるまでが、長い長い時間だった。事なきを得る。
しかし、当然のようにその後、リーチの荒さんから出アガる。

実は似たケースが、前日の4回戦にもあった。

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藤崎さんの打牌の八筒に、荒さんが大明カン。
そして2巡後、藤崎さんに重なっていたはずのドラ一筒を喰い取ってのアガリ。
もう理では説明がつかない戦い。それは本当の意味での死闘になりつつあった。

そして迎えた10回戦東4局3本場。
親番、持ち点36,900のトップ目で連荘中の場面、ついに手が入る。

配牌
四万四索五索三筒三筒四筒四筒六筒六筒六筒北白白中  ドラ六筒

北として、次巡ツモ四筒! 打四万
どこまで伸びるのか解らなくなるくらいの手牌。
だが、そんな空気を察して、南家・前原さんが動きソーズのホンイツへ。

「やっかいだな」

前原さんから余った白をポンして、わずか4巡目で12,000点のテンパイ。
待ちはソーズで、下家の前原さんとかぶっている。
僕がツモ八索、ツモ切りすると前原さんがチー。そして打六筒

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無意識に反応していた。

「カン!」

もちろん、ここのリンシャンでツモれば、トータル2着の前原さんに18,000をかぶせられるとか、もうソーズ待ちだから隠す必要がないとか、色々理由付けはできる。だが、正直な所は身体が勝手に動いただけだ。
リンシャン牌は四索。最悪だ。打四索か、打五索か。
やり過ぎ感を出してはいいけない場面。(もう充分にやり過ぎかもしれないが)
自分を抑えるようにツモ切り。下家の前原さんがチーをしてテンパイ。

八索八索東東  チー四索 左向き二索 上向き三索 上向き チー八索 左向き七索 上向き九索 上向き  ポン南南南

テンパイを入れさせてしまう。
数巡後、ツモ三索の4,000オールをアガる。カンをしようがしまいが結果は同じであった。

後輩の解説陣もア然とする1局。
そのステージを目指す未来ある彼らに見せたかった戦い。本能の戦い。
この場所に立つまでの日々を想い出せば、苦しいけどこの上ない幸せな時間。

10回戦終了時成績
瀬戸熊+72,5P 前原+30.6P 藤崎▲47.0P 荒▲56・1P

家路に着き、パソコンを開くと、9回戦のオーラスの打ドラ三索打ちは、瀬戸熊らしいが7割、やり過ぎが3割の視聴者意見だった。

信頼する友の一言。「打つと思ったよ」僕は「そっか」とだけ答えた。
この一言が、OK、OKと言っているように思えた。

勝負は中間点を終えた。
リードはしているものの、追って来るのは麻雀界最高峰の猛者3人である。
次の対局まで1週間あった。
先頭で待つインターバルは、長い長い1週間になりそうな気がしていた。
そして、それは現実のものとなり僕に襲いかかるのであった。

第29期鳳凰戦の軌跡~圧迫~へ続く。