「~勝つためのバランス~」 佐々木 寿人
2022年06月23日
5歳の息子と公園に行き、シーソーに乗る。
当たり前だがこちらが腰を浮かせなければ、息子はずっと宙に浮いたままだ。
こんな何気ない遊びの中にも駆け引きがあり、自身が子供の頃には全く意識しなかったことである。
最近では、何かにつけて勝負に勝つためのヒントを見出そうとしている自分がいる。
我々の世界にはゴールというものがない。何かタイトルを獲ったからそれで終わりということはなく、また次の試合に向けてしっかりとしたパフォーマンスが求められていく。
現役である限り、これがどこまでも続いていくのだ。
私も45歳となり、おそらくこれ以上大きな成長は望めないだろう。もう決して若くはないし、色々な面で衰えもやってくる。
ただ、歳を重ねたことで見えてきた部分というものも少なからずあるわけで、今が打ち盛りという実感もある。
25歳の自分より、45歳の自分の方が強いと言えるのも不思議な気がするが、20年先も一線で活躍するためにどうあるべきかということは最近よく考える。
同い年で、競輪界のスター選手である佐藤慎太郎さんの存在も大きい。
レースの内容もそうだが、佐藤さんのドキュメンタリー動画で徹底的に自身を追い込む姿を見た時に、私は感動すら覚えた。
日々ここまでやりこんでいるからこそ、我々の心を動かすようなレースができるのだ。
「限界?気のせいだよ!」
佐藤さんのこの言葉に、中年世代の自分がエネルギーをもらっているのは間違いない。
ちなみに古川孝次さんは、その更に上を行く73歳。衰えなど微塵も感じさせないあの機動力を見せつけられれば、自身が老け込むにはまだ早いというものだ。
また、荒正義さんが十段位獲得により、プロ連盟初のグランドスラムを達成されたことも大きな刺激となった。
そして思う。
自分などまだまだだなと。
今期最初のアガリは、前田直哉さんだった。
ロン ドラ
放銃したのは古川さんで、6,400。
これが9巡目の出来事だったのだが、7巡目に私の手牌はこうなっていた。
ツモ
入り方としてはやや弱気かななどと思いながら、私はこのをツモ切った。
前田さんのテンパイがその同巡だったため、結果的には間に合った形である。
自身にアガリがなく、放銃の可能性がある牌を先処理できたのだから、プラスに捉えるべきなのだろう。
当然ながらプラスの精神状態が長ければ長いほど、内容のいい戦いが出来ているということにもつながる。
今はまだそのきっかけを探っている段階とも言える。
しかしながら、1回戦はなかなかアガリが遠かった。
古川さんの1,300オール、黒沢咲さんの3,000・6,000、前田さんの9,600など、3者がアガリを重ねていく中で、東場は遂にノー和了。
もどかしさは付きまとうが、ここは我慢の時だ。
南1局2本場、ようやくチャンスらしい手牌がやってきた。
ツモ ドラ
第一ツモがドラのとくれば、後はアガリ役をどこに求めるかだが、タンヤオが本線になりそうだ。
ましてや供託が3本付きとあれば、この時点から食い仕掛けも意識しなければならない。
9巡目、私のツモ切ったを古川さんがポン。その捨て牌相から、ソーズの一色手が濃厚である。
そして11巡目、私のもとに絶好のドラがやってくる。
ヤミテンでも満貫の手牌だが、ソーズ待ちは古川さんの色と被っている可能性が高い。
「たった1,000点ケチってどうする!積もれば跳満でぃ!」
ということでリーチ。供託も4本となり、初戦の勝負所となった。
結果は古川さんのテンパイ打牌で満貫の出アガリ。
これでようやく原点復帰となったが、問題はこの一発で終わらないことである。
特に次局は、戦前からカギになると言い続けてきた親番だ。
打点は後からでいい。
私はとにかく親番を長く持続させることに意識を傾けていた。
ドラ
好配牌である。ただ、アガリにいくならやはりは一鳴きだろう。
先手、先手で前に出る。そして誰も届かないところまで突っ走る。
昨年とテーマは変わらない。
ポン ロン
続く1本場もその姿勢だ。
ドラ
決していいとは言えない手牌でも、最短でのアガリを目指していく。
チー ロン
2局合わせてもわずか3,300点の収入と思われるかもしれない。
しかし、大爆発のためにはこういった繋ぎが非常に重要なのである。
相手の親番をいかに早く流し、自分の親番をいかに長く続けるか。
これが私の勝負論の根幹にあるものと言っても過言ではない。
この日一番のアガリも、やはり親番に訪れた。
その局面とは、3回戦の南3局だ。
私は前局に、古川さんからダブチャンタドラ2の満貫をアガリ、600点ほど浮きに回って親番を迎えた。
ドラ
とてもいい配牌とは言えないが、1つ決めていたことがあるとするなら、は1枚目から仕掛けるということだ。
その先にソーズのホンイツやトイトイなど、高打点の可能性も十分に秘めた手牌である。
が鳴けない間にやが横に伸びたり、ドラを引いたりしたなら、その時は安くアガる選択も捨てない。
親番に拘るというのは、そういうことだ。
高打点にもメンゼンにも縛られず、素直な進行を目指すのである。
6巡目、そのが暗刻になった。打。
アガリにはまだ遠い形だが、これで大分仕掛けやすくなったと言える。
10巡目、前田さんの切ったをポン。打として1シャンテン。
ポン
これで3,900も見えてきた。そして13巡目、も鳴けてテンパイ。
ポン ポン
もうオリの選択肢はない。
15巡目、南家の黒沢さんがリーチ。考えることといえば、が出たら大明カンだなぐらいのものである。
ここは斬るか斬られるかの勝負だ。
17巡目、ツモ。河を見ても、これはかなり危険なスジに映る。かと言っても通っているわけではない。
加えて前田さんのフーロメンツにがあり、トイトイに受け変えればアガリの可能性は極めて低いものとなるだろう。
本音はをツモ切りたかった。ただ黒沢さんの捨て牌にがある分、打と構えただけである。
勝算の薄い捲り合いになった。それが素直な感情だった。
しかしながら、これがアガリにまで結びついた。
この同巡、古川さんに七対子ドラドラのテンパイが入ったのだ。
確かに私はポンの打だし、最終手出しがである。先に述べた通り、前田さんのフーロメンツにが含まれてもいる。
,に関しては、場に全見えだ。かかの選択なら、やはり打となりそうである。
正直言って望外のアガリではあったが、この日最もテンションが上がった瞬間でもある。
後で映像を見返したときに、黒沢さんのリーチが、待ちだったということも、2日目に向けて好材料となった。
これから何度となく訪れる勝負所を、どれだけ制すことができるか。
タイトル戦を勝つためには絶対に欠かせない要素だ。
だが、初日を終えてここにもう1つの思いが加わった。
それはまた次回に触れていこうと思う。
カテゴリ:鳳凰の部屋