プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第171回:第15回女流モンド優勝特別インタビュー 池沢 麻奈美  インタビュアー:高橋 侑希

8月の終わり
「第15回女流モンド杯で池沢プロが優勝されました。その優勝を記念してインタビューを行いたいのですが、お願いできますか?」とメールが届いた。
この時はまだ女流モンド杯は予選が放送されている最中で、まだ結果を知らなかった。
しかし私に驚きはなく、納得、そして喜びの感情だけがあった。
この度インタビュアーを務めさせていただきますのは、池沢麻奈美プロと同じ中部本部所属で同期。29期生の高橋侑希です。
拙い文章ではありますが、彼女の魅力を少しでも多く伝えられればと思います。お付き合い頂きますようよろしくお願いいたします。
9月、名古屋市某所
池沢「お疲れ様―!かんぱーい!」
高橋「まなみちゃん女流モンド杯優勝おめでとー!!」
池沢「あ、そっか!その乾杯だった(笑)ありがとー!」
めずらしくワインなんて飲んじゃって、おしゃれな女子会雰囲気でインタビューは開始。
店員さんも今から麻雀談義が始まるなど思ってもいなかっただろう。
 

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高橋「さてと!麻雀内容について聞きたいことは色々あるんだけど、まずは他のことからにしようか。対局中のまなみちゃんしか知らない人もいるだろうしね。」
池沢「オッケー!」
高橋「今回の決勝戦とか長時間の対局でもまなみちゃんは集中力を切らさないから、とても体力があるなと思うんだけど、スポーツは得意?何かやっていたことはある?」
池沢「体力といえば、小学4年生の時1000メートルの持久走大会で学校内女子1位だったことがあるよ!」
高橋「部活とかは?」
池沢「中学校の時にバレーボール部に所属していて、キャプテンしてました!」
高橋「勝負強さはその頃からあった?」
池沢「部長だったから、エースって言う存在も大事だけど、ここぞと言うときのプレッシャーというところに強くなった気がするよ。プレッシャーには本当は弱いんだけどね。中学3年のときの最後の夏の大会の時に、3セットあって2セット先取の大会で、2セット目で私の学校が1点取ったら勝ちの状態で、私がサーブミスしてセットを落としたの。3セット目前にプレッシャーで号泣しちゃって。そのときコーチの言葉に救われたんだ。キャプテンだから押しつぶされちゃダメだ!って思って、そういうのがいい経験になったかもしれない。その大会は無事優勝!ちなみにその大会では選手宣誓もしたよ!!」
私も昔剣道をやっていた。そのときのことを思い出す。
学生時代の経験は色々な事に生きてくるなと感じる。
高橋「高校時代は?」
池沢「高校は中学で完全燃焼しちゃって、ひたすらアルバイト。そして高校卒業してすぐに麻雀荘に面接へ行って、そこで麻雀を知ったんだ。だから麻雀を覚えたのは18歳の時。」
実は私はその頃お客としてそのお店に通っていて、新しい女の子がスタッフとして入ったことに興奮していたのを覚えている。なんと中部本部の先輩、佐藤あいりプロも少しだけ一緒に勤務したという。そしてその後石田亜沙己プロとも出会うのだけれど、そのときはもちろん皆アマチュア。縁というものはおもしろいものだ。
高橋「最初は麻雀を知らなかったんだよね?麻雀をやってみてどうだった?」
池沢「初めは仕事をやる上での必要なスキルだと思っていたかな。けど、負けず嫌いだからこっそりと練習して。戦術本を読んでみたり、強いって言われるお客さんの後ろ見をしてみたり、勝てるようになりたいなとは思ってがんばったよ。」
高橋「誰かに教わったわけではない?」
池沢「今まで教わったことはないよ。全部自己流なんだよねー。だからこそ、モンドや夕刊フジ杯での解説の方の言葉は、新鮮だし私にとってとても勉強になってる!」
高橋「じゃあいよいよ今回の決勝戦の内容について!聞きたい話はいっぱいあるんだけど、何個か気になった局を挙げていくね。」
池沢「よしっ!」
1回戦目 東1局 東家 12巡目
四万五万八万八万五索七索七索八索九索五筒六筒七筒八筒  ツモ三万  ドラ五索
1巡前に水瀬プロより先制リーチを受けこの形でテンパイ。
池沢は迷うことなく八筒切リーチをした。
高橋「親番っていうのはあるけど、この形で追っかけるのって勇気がいるよね。こわくなかった?」
池沢「決勝戦は気持ちで負けちゃいけないと思っているから、開局、親番でオリる選択肢はほぼない。相手の打点はわからないけど、最初に弱気になっちゃうと、その半荘ずっと弱気になっちゃうから。どんな結果であれ最初なら修復もきくし、中途半端になるくらいならリーチをして打ち取りたい。放銃してもいいの。これは意思表示のリーチ。」
たった2戦しかない決勝戦。放銃に回ればかなり痛いはず。
タイトルをとる人間はやはり気持ちの強さが違うのかと改めて思い知らされる。
高橋「この局は?ツモり四暗刻の局。これは飛ばす?」
池沢「ツモスーの局?これは入れてほしい!!」
1回戦目 東4局 南家 8巡目
二万二万一索一索一索三索三索三索二筒二筒東東東  ドラ発
ツモることは叶わなかったが、池沢はこの局はとても重要な局だったと語った。
池沢「ここでは水瀬さんから直撃できたことが大きかった!水瀬さんの勢いを止めるこができたし、ツモりたいのは山々だったけど、自分の点棒が増えることよりも皆の点棒をフラットにできたことが大切で、1人を走らせておくと周りには条件ができて、条件が生まれるとそのために普段の麻雀と違うことをするようになっちゃう。そうすれば麻雀自体が歪んで、トップはもっと自由になる。フラットな状態なら皆で止めることができるし、自然な場になり、トップに自由にさせない。そういう意味で点数状況が平たくなったのは大きかったし、重要な局だった。」
トップを追う立場で自分が加点することに満足してしまうことも多いだろう。
また一対一に持ち込んでしまおうと考える人もいそうだ。しかしそうなればやはり追う立場のほうが苦しいのである。
彼女はたくさんの経験の中、自分で戦い方を見出しトッププロたちとも戦っている。
いつの間に彼女はこんなに先に進んでいたのだろうと驚き、ともに怖いとも思った。
2回戦 東1局 北家 3巡目
三万四万七万七万八万八万一筒一筒二筒三筒四筒六筒八筒  ツモ五索  ドラ五索
タンヤオを見つつ一気通貫やイーペーコーの可能性は残す打一筒、最終形の強さを見ての打八筒などの選択肢もある中、池沢が選んだ打牌は七万だった。
池沢「この巡目でドラは切らなくて、最終形を想定したときに私の中でマンズ2面子・ピンズ1+雀頭・ソウズ1面子のイメージがあって。そうなるとマンズは3面子いらないのだから二度受け部分はほぐしたい。それに一筒を外して七万七万八万八万の並びシャンポンのテンパイは取りたくないしね。私は結構早めにいらない牌を決めてるんだ。」
高橋「そうなると八筒とかからでもいいのでは?」
池沢「六筒八筒は重なったときに雀頭の一筒と振り替えてタンヤオを狙えるから、先に七万を選んだの。最終形はシンプルに。あと両面ターツを外しておくことで後にそこが残れば待ちとして強くなるし。」
改めて考えてみれば確かに柔軟で、彼女らしい選択だと思った。
結果池沢は3、4巡目に七万八万を落とし、
三万四万五万七万八万五索五索一筒二筒三筒四筒五筒六筒
この形で7巡目リーチ。
誰が九万を止められるだろうか。1回戦目を2着で終えた水瀬プロより8,000点の出アガリとなり池沢がさらにポイントを突き放す結果となった。
他にももっと取り上げたいと思うくらいこの決勝戦は彼女の魅力が溢れるものだった。
今回はその中でも意思が強く出ていた局を挙げたつもりだが、本当はもっと語りたいくらいだ。ぜひ皆さんにも対局を観ていただきたい!
高橋「女流モンド杯は一度予選敗退して、それを含めて3年目だけど、今年はなにか心境の変化はあった?」
池沢「チャレンジマッチで復活した2年目は落ちたくないという気持ちでいっぱいだったけど、今年はそれじゃダメだと思って攻める麻雀を心がけたよ。決勝は失うものも何もないし、気持ちが強い人が勝つと思ったから、最終的にはメンタル勝負!モンドに出ている人は技術が備わっているのは当たり前だから、あとは気持ちの違いだって。メンタルだけは負けないようにと思ってた。今期は予選もずっと水瀬さんに勢いがあって常に中心になっていて、すごく強かったんだよね!負けたくなかった。」
高橋「そういえば清水香織プロが解説でお祓いのことに触れていたけど、効果あったの?(笑)」
池沢「お祓いね!(笑)効果は絶大だったよー!!お祓いについては色々と意見はあるかもしれないんだけど、私にとっては本当に効果が絶大で。モンドはもちろんだけど、他の対局にも効果が出ているなぁと思ったところはあったよーやっぱり麻雀の神様っているんだね!」
麻雀内容から話が変わると真面目な表情から一転。普段の無邪気な彼女に戻る。
 
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(話している最中も食べる手は止めない池沢プロ(笑))
高橋「じゃあ最後にプライベートのこと聞こうかな。」
池沢「ドキッ!(笑)」
高橋「そうだなー。インドア派?アウトドア派?」
池沢「インドア派!お日様苦手―…。雨戸を閉めて寝てて台風の状況に気付かなかったとかもよくある話だし。」
高橋「インドアって言っても何してるの?」
池沢「ゲームしたり、ゲーム実況見たり、テレビ見たり…インドアだね(笑)あ!でも最近、ゴルフ始めたんだ!早くコースデビューしてみたい!インドア派だけど、今も身体を動かすのが嫌いなわけじゃないからね!」
冗談っぽく笑いながらではあったが、プライベートの話をインタビューされるのは恥ずかしいらしく少し照れたように話してくれた。
池沢麻奈美プロが野口恭一郎賞を受賞して2年が経った。
彼女はタイトルホルダーとなってからたくさんのプレッシャーと闘ってきた。普段の明るさからは想像もつかないが、たまに出る弱音はきっと彼女の本音だ。
だが彼女は「麻雀プロとして結果で勝負をしたい」といつも口にしている。彼女の気持ちの強さこそが結果に表れているのだろう。
彼女をプロとして友として近くで見てきた。追いつきたい、追い越したい…そう思う度、彼女はまた一歩先に進んでしまう。
今はそれでいい。壁は大きいほうが良い。
彼女の強さを見てきたからこそ、彼女の素晴らしさを感じ、いつか越えたいと思う。
でも今は友として…
「まなみちゃん、優勝おめでとう!」
心からそう言いたい。
 
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