プロ雀士インタビュー/第178回:プロ雀士インタビュー 佐々木 寿人 インタビュアー:蛯原 朗
2018年03月05日
【出会い】
クリスマスで街が賑わう中、世界の終わりを何度となく照らしてきたような水銀灯の前を一人寂しく歩いていると、ふとある歌詞が頭に浮かんだ。
『夢は見るんじゃなくて叶えるものだ…って誰かが言ってたな、そんなのどっちでもいい、いま目の前のチャンスつかむの』
翌日、目が覚め携帯電話を手に取ると、編集部からメールが届いていた。
内容は佐々木寿人プロの天空麻雀19優勝インタビューをお願いしたいと言うものだった。
私は二つ返事で承諾し、机の中に大切にしまっていた青いファイルを取り出し読み返した。
10年以上前のものである。当時、近代麻雀で連載されていた、寿人さんがプロになる前の姿を描いた「激突」と言う漫画を、私は1ページずつ綺麗にファイリングしていたのだ。
これが私と佐々木寿人プロとの初めての出会いであり、この時から私は寿人さんの大ファンである。
連盟チャンネル、モンドTV、近代麻雀などでその活躍をずっと見てきたため、寿人さんからのインタビューの日程調整の返信を待つ間は、まるで片想いの相手からの返信を待っているかのようにドキドキした。
インタビュー記事を作成するにあたり、実際に対話していた時の音声を後から聞いてみたときも、その声のうわずり方から、いかに自分が興奮していたのかに気付き、顔から火が出る思いがした。
インタビュー当日、場所は連盟スタジオだったのだが、出だしから緊張しまくっていた私に寿人さんは冷蔵庫を開けながらこう言った。
「まあ、りんごジュースでも飲めよ。」
この冗談に「自宅かよ!」と突っ込むことなど出来るわけもなかったが、その気遣いで気持ちが和み、スムーズにインタビューを開始することができた。
【最終形のイメージ】
蛯原「早速ですが、今回の対局でマークしていたプロはいますか?」
寿人「意識する人は森山会長だよ。ここで優勝されると差が3つになっちゃうからね。負けられないよ。」
テレビ対局での優勝回数は数知れず。
この天空麻雀でも第1回大会から出場し続け、勿論何度も優勝をしている寿人プロ。
しかし、それ以上に多くの優勝を、森山会長がしているのだ。
東1局
蛯原「この手牌からペンを嫌いましたが、待ちが弱いからですか?切る人も多そうですが。」
寿人「そうだね、ペンがイヤだったことと、を切りたくないからね。を使い切る最終形をイメージして、アタマ探しが優先って感じだね。最終形、単騎でもいいしね。」
この『単騎でもいいしね』という言葉を聞いたとき、ある記事を思い出し懐かしくなった。
内容は、以下のようなものだ。
T氏が初めてS氏と対戦したときのことである。
中盤過ぎ、S氏がリーチと発声。周りは皆オリ、流局後S氏が広げた手牌を見て、T氏は衝撃を受けるのであった。
T氏「えっ・・・・・。」
待ちが何の脈絡も無さそうな単騎だったからだ。
S氏「単騎だったなー。」
T氏「・・・・・・・・。」
T氏は言葉を失った。
もうお分かりかとは思うが、このT氏は滝沢和典プロ、S氏は佐々木寿人プロである。
おそらくこの記事は10年ほど前に読んだものであったので、寿人プロはこの当時から超愚形リーチを極めていたと言うことになる。
東1局の手牌の話に戻るが、結局この局は先にが重なり、まんまとアタマ探しに成功した寿人プロ。
開局早々イメージ通りの4,000オールをアガリ、好調な滑り出しとなった。
【東風戦時代】
東2局
寿人「ここで打点が欲しい場合は切る人もいるかもね。ただ、これは別にドラのが出て行ってしまっても良いと思っていたよ。入ってくれれば自然にドラも使えるしね。」
寿人プロは、一番ロスの少ない、切りを選択。
蛯原「この局は、打点よりも最終形の良さとアガリ易さ優先の手組をしていると言うことですか?」
寿人「そうね、今リードしてるからね。点数が無いときは、残して切りそうだけどね。」
蛯原「赤牌の話をしていると、寿人さんの東風戦時代を思い出しますよ。天空麻雀のルールは、打ち方的に東風戦に近いものはありますか?できれば勝つ秘訣みたいなものも教えて下さい。」
寿人「だいたい同じだね。割と序盤に手を広げられるときは、好調を意識しているときだし、安全牌を持つときは誰かをマークしているようなことはあるよね。基本は手をブクブクにしている方が僕は勝てると思っているよ。」
蛯原「そうなんですね。」
寿人「安全牌を残したがってターツの失敗とかするのは、気持ちの弱さだよね。昔はあまりなかったなぁ。アガることに必死だったからね。リーチ入っても危険牌バンバン切ってたしね。」
蛯原「攻める姿勢に関してはだいぶ変わったんですね。」
寿人「だいぶ変わったよ。」
蛯原「今はガンガン切ってますもんね。」
寿人「おいっ、人の話聞いてるのか!(笑)」
蛯原「すいません。(笑)」
【近代麻雀で漫画のモデル】
蛯原「寿人さんと言えば近代麻雀で漫画のモデルにもなっていましたが、お店で働いていたときの成績(平均順位)は相当良かったんじゃないですか?」
寿人「2.2位だね。」
蛯原「えっ?そんなに良かったんですか?」
寿人「そうね。メンバーのときはしっかり成績つけてたからね。」
蛯原(神様、仏様、寿人様・・・。)
寿人「東風戦を打っていれば字牌の残し方重ね方と、タンヤオはどうやったって上手くなるよ。麻雀勝つには重要な要素だからね。競技ルールから入った人は、打点を作ること、手役を作ることは上手かもしれないけど、アガリ方が上手かどうかはまた別だよね。赤あり麻雀はアガリ回数が大事だからね。」
【鉄のメンタル】
東3局
蛯原「この放銃は何か思ったことはありましたか?」
寿人「あーやられたなって思ったよ。受け間違いもあるし、放銃になっているからマークすべきは小島先生かなって感じだね。」
蛯原「今見ても打ちますかね?」
寿人「打つかもねー?うん、打ちそうな感じするわ。言うても絶対的に正解は出せないからね。失敗したら失敗であきらめるしかないよね。」
(さすがだなー・・・。)
この局はアガリを逃した上、放銃となり厳しい状況に立たされてしまった。それにも関わらず、揺れない心の強さ・・・これがまさに寿人プロの強さの所以『鉄のメンタル』なのだ。
これがタイトル獲得やテレビ対局などで数多くの優勝に繋がっているのではないだろうか。
実際に寿人プロのメンタル面の強さは荒正義プロの本にも紹介されている。
麻雀進化論
荒 正義/著
佐々木寿人という男
14図 南3局 東家 11巡目
ツモ ドラ
14図は南3局、11巡目の東家の手だ。
東家は前局6,000オールを引いて、ラスから一躍トップに踊り出たところである。
現状7,000点の浮きで二番手の北家とは一万点差。
つまり、もうひとアガリでトップがほぼ確定する状況なのだ。となれば鳴いて5,800点のアガリでもよしである。
ではこのとき、あなたなら何を切るだろう。
東家は一瞬ためらいながらもを切った。
この東家こそが佐々木寿人プロである。寿人と書いてヒサトと読む。
確かにヒサトの攻めは日本刀のように鋭い切れ味がする。
さらに、ツモって切る打牌のスピードも群を抜いている。
打牌の速さは強さに通じるのである。
しかしそんなヒサトもこのときだけは間違えた。
鳴いて5,800点でもOKなら、この形は切りが本手なのである。
これなら手の内のソーズはとの形に分けられる。
ドラを生かしてが鳴ける分、手が広く切りより切りが勝るのである。
もちろん、この手で三暗刻を狙うなど論外である。
案の定、ヒサトの次のツモがでこの一局の大事なアガリを逃した。
さらにトップもまくられたのである。
ヒサトも人間、また麻雀は正直なものである。
だが、彼のもう一つの強さは、それでも揺れない心の強さだ。
闘いの姿勢はもう次の半荘に向いているのだ。
失投を一番感じているのは彼自信のはずである。
しかし勝負の途中の反省は、視野を狭くし思考能力の低下につながる。
反省なんか後だ、である。この気合がいいのだ。
【打点をMAXに・・・】
東4局
蛯原「手役派の寿人さんが切るのは珍しいですね。」
寿人「これ大きかったな。狭く受けざるをえなかった。やっぱり意識が先生に向いてるから打点をMAXにできなかったって感じだね。この局ポイントだね。」
(残しの場合、ピンフ三色赤ドラのテンパイ)
蛯原「ちなみに残してた場合、打点はあるのですがリーチしますか?」
寿人「リーチだね。ただ手役のこと一切考えなければ、リーチ宣言牌を字牌にした方が動かれるかどうかわからないから理想的だよね。」
【七対子は安全牌を】
2回戦目 東2局1本場
蛯原「細かい話にはなりますが、この手牌のとの比較についてお聞きしたいのですが・・・。」
寿人「親がを切っているからを切るね。七対子をやるときは、傾向として自分の都合の良い牌だけを残さず、安全牌を残したがるかな。点数があったりすると違うかもしれないけど、リードしていてあと1半荘であまり大きな放銃をしたくない状況だからは場に2枚出ているけど、持っておく。これがドラ2枚あれば話は変わるけどね。」
この局は、親の小島先生から先制リーチが入ると、森山会長からも追っかけリーチが入った。寿人プロは2件リーチと苦しい中、上手く回りながらテンパイをとることができたのだが、最終的に親の小島先生に7,700の放銃となる。
蛯原「放銃となってしまったは凄く良い待ちになっていますね。」
寿人「感想戦でも言ったけど良い待ちなんだよ。これはやられたね。」
蛯原「これで現状トップ目が小島先生になりましたが心境の変化はありましたか?」
寿人「劣勢になってるから今度はちゃんとアガリ返していかないといけないと思ったよ。」
【ミラクル的なアガリ】
2回戦目 南3局
寿人「は有り難かったね。一発での出アガリになったからね。タンヤオをつけたかったんだけど、結果的には受けの気持ちで残したが重なって・・・」
蛯原「この形からを切る人もいるので、人によってはアガれない形でしたね。」
寿人「小島先生の仕掛けあってのアガリだね。 本来の手順だとここで打つかもしれない。麻雀ってミラクル的なアガリが出た時には結構優勝することがある。手順通りに打ったとしても必ずしもアガれるとは限らないからね。」
【電光石火】
2回戦目 南4局
2回戦オーラス、アガれば優勝の条件だ。
寿人プロは、東風戦で磨いたスピード主体の麻雀を活かし、電光石火のごとく積極的に捌きに向かい、5度目の優勝となった。
寿人プロ、改めて優勝おめでとうございます。
次回の天空麻雀を連覇し、現6度優勝の森山会長に並ぶことができるのか?
はたまた別の強者達が優勝するのであろうか。
白熱した戦いが、今から待ち遠しい。
蛯原「寿人さんが、初めてテレビ対局に出たのは、萩原さんと対局した番組ですよね?あの時に、初めて寿人さんがどんな顔をしている人なのかを知りました。」
寿人「そうそうそう。なんでも知ってるね。」
蛯原「初めてのテレビ対局は緊張しましたか?」
寿人「だいぶ・・・」
(寿人さんも緊張とかするのか)
寿人「いや、しなかったな。」
蛯原「さ、さすがです。。」
寿人「蛯原って・・・本当に、俺のファンなんだな。(笑)」
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