第185回:プロ雀士インタビュー 日髙 志穂 インタビュアー:高橋 侑希
2018年10月09日
9月の初め。
私は久しぶりにこの地にやってきた。
黄金の信長像。そう岐阜駅である。
私は後輩を祝うべく、花を買い、待ち合わせ場所へと向かった。
プロになって半年という短さ。そして中部プロリーグ以外では初の公式戦となる大会にて優勝。第32期新人王に輝いた日髙志穂プロ。
インタビュアーを務めさせていただきますのは、同じく中部本部所属の高橋侑希です。よろしくお願いいたします。
岐阜駅で待ち合わせ。
せっかく岐阜繋がりなんだからと、インタビューが決まった時に岐阜でやろう!と決めた。
日髙プロの運転でオススメのカフェへ。
さすが放送でも取り上げられていたほどの紅茶好き日髙さん!と思いきや…。
「アイスレモネードで」
紅茶頼まんのかーい!と心でツッコミを入れたことはここだけの秘密。
そしておしゃれなスイーツを食べながらインタビュー開始。
高橋「日髙さん改めて優勝おめでとう!」
日髙「ありがとうございます!インタビューって一体どんな感じなのかわからなくって…」
高橋「自然に話してる感じで大丈夫だよー(笑)」
まだまだ緊張した面持ちで、シフォンケーキを頬張る彼女はとても可愛らしかった。
高橋「ではでは、まず新人王になった感想からお願いします。」
日髙「えっと、素直に嬉しいと思うと同時に、皆さんの期待に応えられるよう…気を引き締めているところです!」
高橋「引き締め中なの?(笑)」
日髙「はい!こう、キュッと!」
日髙「あと…。これから先輩方に頼ることが多くなるなぁと感じるのですが。自分の中でがんばりつつ、先輩方に失礼のないようにしたいなと。」
高橋「ちなみに今回初の公式戦だったわけだけど、緊張した?」
日髙「緊張しました!でもなるべく普段通りに打とうって心がけました。」
高橋「予選はどんな感じだったの?」
日髙「予選は、大きい手をアガるというよりもコツコツアガリ続けた感じです。チンイツをアガった局はとても覚えていて!
2フーロして単騎でテンパイが入るんですが、鳴いている面子ですでにを2枚使っちゃってるんです。でもは全て見えていて絶対に誰も使えないだと思っていたんですがそれを打ち取れて、嬉しかったですね。」
最初は何を話せば良いかわからないと言っていた彼女だったが、麻雀の話となるとどんどん饒舌になっていく。なんだか自分と似た匂いを感じた。
高橋「決勝進出が決まった時の気持ちやこう打とうみたいな作戦はあった?」
日髙「一番はもう、周りの人に失礼のないように打とう…ですかね。決勝だからと言って気張って変なことをしたりしないようにとか。日和らず、焦らずをモットーにやろうと!」
高橋「じゃあ今度はその決勝戦の内容について聞こうかな。」
インタビューが決まった時、日髙プロに「もし取り上げてほしい局があったら教えてほしい」と連絡をしたらある2局を挙げてくれたので、今回はその局を掘り下げたいと思う。
3回戦目 東2局 1本場 東家 ドラ
日髙プロが早い巡目に役なしテンパイ。しかしこの時点ですでに鹿嶌プロが、ポンの2フーロ。手替わり待ちでヤミテンに構えるが、を引き空切りリーチに出た。
日髙「三色やタンヤオの手替わりがあるのでヤミテンに構えていました。しかしどこかでリーチをして押さえつけなければとも考えていました。ツモ切りリーチはしたくなくて、空切りできる牌がきたところでドラが2枚切られたのでこのタイミングでリーチに踏み切りました。打っている時はリーチ後にを引いてきて、もしかしたら出るんじゃないかなーとか希望的観測もあったり…(笑)」
高橋「でもは日髙さんが切った1枚しか見えてないよね?大三元の可能性は?」
日髙「考えましたが、場況としては待ちとして良さそうなのに捉えられないというのが嫌で。親でアガれず、他の人に来られるのは避けたかったんです。子だった場合リーチはもちろんかけてないです。落としたくない親だからこそです。あと…鹿嶌プロの待ちについてなんですが、2枚目のドラのをツモ切りするとき若干悔しそうに見えたんです。そのアクションで単騎待ちなんじゃないかって思って。そういったこともあって大三元はなさそうと感じたんです。」
高橋「雰囲気とかちょっとしたアクションって重要だよね。」
日髙「普段からも結構切り方の雰囲気で本手か本手じゃないか考えることは多いですね。」
一見無謀にも見えるリーチ判断。しかし日髙プロにはとても冷静に場が見えていたのだろう。初のタイトル戦、しかも決勝の放送対局でそこまで冷静になれる彼女はすごいとしか言いようがない。
この局は結果見事にをツモり2,000オールのアガリとなった。
最終戦 南4局 東家 ドラ
うまくいけばドラを使ったメンタンピン形まで見える局面。しかし日髙プロの選択はのターツ外し。そして鳴いて1,500点を上田プロからアガるのだが…。
高橋「ここで小さくアガっても上田プロの条件はそんなに変わらないから、ここまでの手なら高くもできたと思うけど。鳴く構えに受けたのはどうして?」
日髙「面前で大きく仕上げるのか、鳴いて安くてもアガリを取りに行くのか意見は分かれると思います。を外すところなんですが、の場況が良いと思えたのと、仕掛けも考慮してのテンパイしやすさを考えました。ピンフ形に決めてテンパイをとれなくなるのが怖くて。後半になったら上家の鹿嶌プロも牌を絞ってくるだろうから形テンもとれるか怪しくなってしまうと思うんです。」
高橋「でも打点があるピンフ形が見えるところで両面ターツを外そうと思い切れるのはすごいと思うよ。」
日髙「私、チーってあんまり好きじゃないんです。誰からでも貰えるポンのほうが良いじゃないですか?この局面で言えばまっすぐ来るのは上田プロなので、上田プロからも鳴けるほうがやっぱり有利ですし。」
日髙「でも上田プロに条件を突きつけ次局ノーテンで伏せられるようにするためにも、大きく手を作ったほうが良いということもわかっていました。心の余裕が無かったなと。仕掛けられる方に行ってしまったのは甘えでもあり、反省点です。でもそこで自分の心の余裕の無さに気がつけて、1本場では逆に冷静に打てたかと思います。」
親を繋げた1本場では4,000オールをツモ。
2着目の上田プロを大きく離す形となり、実質優勝への決め手のアガリとなった。
高橋「でもなんか今回の対局を見て、日髙さんの打ち方の印象変わったなー。鳴きも多かったし、自ら攻めていく局面も多かったよね!」
日髙「中部本部の青山大プロのホームページに載っているプロフィールに「打点重視型」ってあるんですけど、昔は手役や面前を意識して打点重視だったんです。でも今は「アガリ率重視」の方が合ってるかなって。プロフィールも変えてもらわなきゃ!今回の対局を見ていても全然打点重視じゃなかったですよね(笑)」
皆がまだまだ試行錯誤を繰り返す中、彼女は今回の新人王戦を通して自分の中で何かを見つけたのかもしれない。
高橋「今回の麻雀の見直しや反省は結構した?」
日髙「実況解説してもらうことが初めてだったので、1人で見ながらなるほど~なるほど~って呟いていました!自分のためにも厳しく言ってもらえることはいいですね。逆に普段辛口の方に褒めてもらえたときが嬉しいなって思います。」
高橋「シードもあるわけだけど、これから他タイトル戦にも出場していく感じだよね?」
日髙「できることはすべてやる気持ちで。せっかくいただいたシードもいかしていきたいですし、来期からは女流桜花も出ます!でも私走り出すと止まらないタイプなんです。よく親に怒られるんです。あなたは本当に何でもかんでも手を出そうとして転ぶからやめなさいって(笑)なので今はきちんと様子を見て、確実に登っていく感じで。少しずつやっていくようにしています。」
高橋「ちなみに…今更なんだけど、日髙さんって岐阜出身なんだっけ?」
日髙「いえ、実家は横浜で。実は岐阜出身じゃないんです。」
高橋「えっ!そうなの?じゃあなんで岐阜に?」
日髙「岐阜の大学に通う都合でこちらに出てきました。母方の実家が岐阜にあったということもありますね。」
高橋「今も学生なんだっけ?」
日髙「そうですね。休学していましてその間にプロになったんですが、また復学することになりました!」
高橋「麻雀をやるきっかけってなんだったの?」
日髙「大学の同期が麻雀好きで。みんなが遊んでいるときに最初は横から見ているだけだったんですよね。その同期の中の1人が今働いているお店でバイトしていて、誘われたのがきっかけです。麻雀を覚えたのはそれからです。親は元々麻雀やるのは反対していて、やっぱり親には麻雀=ギャンブルのイメージがあったみたいで。プロになって、資格を取れば納得してもらえるのかなって気持ちもありました。離れて暮らしている分心配もかけてしまっているので。今回タイトルを獲ったよと伝えて、やっと認めてもらえた感じがします。」
高橋「よかったね!それを聞いて安心したよ。」
日髙「ただ新人王戦に出るよりも前に復学することは決まっていたので、これから大学に通いながらプロ活動を行うとなると少し不安もあります…。」
高橋「では最後に今後の目標を教えてください。」
日髙「私のキャパシティ内でできることを一生懸命、なんでも取り組んでいきたいです。慢心せずに日々の努力を忘れないようにしたいです。」
学生と麻雀プロ。二足の草鞋を履く生活は決して楽なものではない。
しかしまだあどけない表情が残る彼女を見ていると妹ができたかのように思えて応援したい気持ちになる。
後日…
ある大会で彼女に会うと髪をバッサリと切り、ショートカットになっていた。
「気合いを入れてきました!」
そう笑顔で話す彼女だったが、対局になると一変。真剣な眼差しで卓上を見つめていた。
「新人王」の肩書きがまたひとつ彼女を成長させたのかもしれない。
このインタビューを通して、初めは「日髙さん」と呼んでいた私も「志穂ちゃん」と呼べるほど打ち解け、親しくなれた。
これからも同じ地方プロとして盛り上げていきたいと思うと共に、彼女の活躍に期待したい。
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