プロ雀士インタビュー

第245回:プロ雀士インタビュー 吉野敦志  インタビュアー:井出康平

第2期鷲和戦を制した吉野敦志。
彼を初めて知ったのは今から約9年くらい前だろうか。

当時、猿川会なる集いが定期的にあり(今もあるのかな?笑)そこに可愛がってもらってる若手としていたのが初対面だった。
その頃ちょうど『KO麻雀』という番組をリニューアルしたくて、適任者を探している真っ最中だった。

『若くて勢いがあり弄られる』

吉野を見たときにすぐピンときた。(中村慎吾はおまけ)
まだ、当時全く無名だった彼に、約3年に渡りレギュラー出演してもらったのだが、同時にある罪悪感が僕には湧いていた。
今回の鷲和戦を勝つまで、彼はプロ生活において全くと言っていい程結果が出なかったのだ。

入会まもない頃は周囲からの期待も高く、いずれ結果はついてくるだけの素質は持ち合わせていると誰もが思っていた。
試合内容はもちろん見れないが、普段の麻雀を考えたら下振れではすまないくらいの結果だったと思う。

まだ配信環境も少なかったあの時代。いきなりの抜擢が吉野に空回りを与えたのではないかと責任を感じていた。
しかし、プロの世界。プレッシャーをプラスに変えれないのならそこまでの選手。
責任を感じるよりも、起用した吉野を信じようと決意したのが懐かしいくらいの月日を感じる。

井出「吉野改めておめでとう!っていうか、会うのも久しぶりだね!何年ぶり?」

吉野「ありがとうございます!多分3年ぶりくらいですかね!井出さんも生きてたんすね!」

 

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相変わらずの吉野節(笑)。考えてみたら本当に3年くらい会っていなかった。この日は最近ゴルフにはまってる三田夫婦も交え、ラウンドに行ってきた帰り道のお寿司屋さんでインタビューは行われた。

井出「吉野よく辞めなかったよね。辞めようかなって考えた時期はなかったの?」

吉野「ありましたよ。やっぱり結果が出ないし、色々な人に可愛がってもらってるし…。葛藤がありましたよ。」

井出「やっぱりあったんだね。最善を尽くしても結果が出るとは限らないし、10年くらいが一区切りになるかなって思うしねー。」

吉野「生活環境も変わって色々大変でしたし、今は飲食で働いてます。圧倒的に打半荘数が減ったのに、鷲和戦は不思議と勝つ気しかしなかったっす。」

これまた興味深いワードだ。麻雀と接する時間が減ったのに、突然結果が出だしたりするのはあるあるな気がする。

吉野「やっぱり、くだらない見落としとかはちょいちょい出ちゃうんですけど、天才なんで頭で考えるより感覚で打てちゃうんすよね。」

本人は冗談交じりでそう話すが、吉野は本当に天才肌だと思う。
『センス』という言葉があるのだが、吉野はセンスの塊だと思う。
何をやらせても見様見真似である程度のものはこなしてくる。

これは主観だが、才能と感覚が優れてる吉野に足らなかったのは麻雀の経験ではなくて、人生の経験値だと思ってた。
誰からも可愛がられる吉野にとっては、その環境が成長の妨げになってる気がしていた。自分主体の行動が圧倒的に少ない事で、麻雀という対人ゲームの中でのサバイバル感が養えていないのがネックだと思っていた。

そんな自分にとっては、とても興味深い話しだったが、やはり吉野は天才。それを結びつける感覚や、言語化する事はできないのだ。本能ではうっすらわかっているのかもしれないが、天才とはそうゆうものなのかもしれない。

井出「勝負所ってあった?」

吉野「井出さんこれ何切ります?」

 

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井出「さすがに九索切りそうだなー」

吉野「井出さん甘いっすね。ドラ切りっすよ!」

 

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井出「へー!まあ実戦的っちゃ実戦的だね!」

吉野「この半荘(2回戦)で最大80P差まで西川さんに開かれたんですけど、南1局の親で吹いて色々あったんですよ。」

この吉野の連荘中に西川はツモり四暗刻をリーチ。リンシャンから8枚目の二筒五筒を掴み吉野に連荘を許すなど気持ち悪い展開になっていった。
そのあとも遠い仕掛けが吉野に6,000オールを成就させたりと一気に追い付かれてしまう。
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吉野「結果論なんですが、このタイミングで西川さんにドラドラ七対子のテンパイが入ってるんですよ。僕のドラ切りを見てツモ切りリーチにくるんですが、ヤミテン続行だと他家から9,600出アガリしてそうなんですよ。」

三田「これみた時に、精神的に西川さんが追い込まれてるように映ったよね。」

吉野「多分、僕のドラ切り見てのリーチだと思うんですが、このリーチに怯まないでアガリで蹴れたのがかなり大きかったですね」

 

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三田「打ってる本人はドラ切りがそんな風に展開が動いたのはわかってないだろうけどね。リーチを打った西川さんすらもね。」

三田「勝つときはそんなもんなのかもしれないね」

吉野「ただ、最大80P差があったものを追い詰められた感じは伝わってきたんで、そこは怯まないで畳み掛けられた感じはかなり感触がよかったです」

そんな時に、お寿司屋さんの方がお茶を運んでくれた。その際に。

「もしかして麻雀プロの方々ですか?」

三田「はい。一応(笑)」

「マスター!やっぱり麻雀のプロの方々みたいですよ!」

店主「やっぱり!麻雀の話ばかりしてるから、もしかしたらと思ってね!私もYouTubeとかケーブルテレビとか観てましてね!」

三田「YouTubeなら彼とか観ませんでしたか?彼最近タイトル戦優勝しまして」

店主「いやー、どうかなー。誰がどうかわからないけど、つい観ちゃうんだよねー」

店主と麻雀業界の話をしてる時の吉野の照れ臭い感じがなんともいえない。
鷲和戦に勝たなければ、自分が麻雀プロだと名乗るのも拒んだかもしれない。タイトルを取ったことで、一応麻雀プロですと照れながらも答えられた事が吉野は一番大きな収穫かもしれない。

井出「大事なのは取ったあとだぞ!大体吉野は…ブツブツブツブツ…」

吉野「井出さん、僕もうタイトルホルダーですから!井出さん風呂場で一生懸命ゴルフのスイング熱弁してたんすけど、素っ裸で真剣に語られても目が下半身しかいかないっすから!」

三田「吉野。それな。」

吉野は可愛い。それも天性のものだろう。可愛いだけではダメな世界。それも段々わかってきたのだろう。

上手くいかないけど諦めなかった。我慢した。環境も変わった。
凄く上から目線に感じるかもしれないが、試合をしてる時の顔つきはすごく逞しく感じた。
それは、上手くいかなかった10年と向き合った男の顔のような気がする。関係性や過程を知っているからなのかもしれないが、自分にとってはとてもカッコいい男の顔だった。

一同「ごちそうさまでした!」

店主「お兄ちゃんの顔思い出したよ。観てた観てた!今思い出したよ!」

井出「お前サイン書いてけよ(笑)」

吉野「井出さん、バカにしてるっしょ?(笑)」

やっぱり照れた吉野を見て思う。可愛いがよく似合う男だ。
おめでとう。吉野。